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第4話 セドリックと妾の子ルイ

Author: 月歌
last update Last Updated: 2025-04-04 16:19:17

◆◆◆◆◆

「ミア、一人で降りられるか?」

セドリックが穏やかに声をかけると、ミアは赤子をしっかりと抱きながら応えた。

「大丈夫です、セドリック様」

彼女は馬車から慎重に降り、目の前のアシュフォード邸を見上げた。

「懐かしい……昔のままだわ」

その呟きに、セドリックは優しく微笑みながら言葉を添えた。

「庭園も昔と変わらないぞ。ルイもきっと喜ぶだろう。後で三人で散歩しよう」

庭園の木々は赤や黄色に染まり始め、風に乗った落ち葉がひとつ、彼女たちの足元に舞い降りた。それは、季節の移ろいを静かに告げるようだった。

セドリックの言葉に、ミアは嬉しそうに微笑み、腕の中の赤子――ルイに目を向けて優しく語りかける。

「散歩しようね、ルイ」

セドリックはミアの姿を見つめながら、ルイに視線を移した。赤子の顔は穏やかに眠りについているようだった。彼はそっとルイの額に手を触れる。

「冷えていないか、ルイ?」

赤子の肌が冷たくないことを確認すると、安堵の表情を浮かべながら、セドリックは彼女に問いかけた。

「寒くはないか、ミア?ルイのためにももう少し厚手のブランケットを用意させよう」

「ありがとうございます、セドリック様。でも今のところ大丈夫そうです」

ミアが控えめに微笑むと、セドリックは小さく頷き、再び彼女を静かに見つめた。

ミア・グリーン――彼が初めて彼女に出会ったのは、まだ彼女が幼い頃のことだった。庭師長夫婦の娘として、アシュフォード邸の庭園を遊び場にしていた少女。その頃は、ただの下女の一人としか見ていなかった。

だが、時が経つにつれ、ミアは美しい少女へと成長し、やがて大人の女性へと開花した。いつの間にか、彼女はセドリックの心を奪っていた。

身分違いの恋に苦しむだけだと理解していた。それでも想いを抑えることはできず、ついに彼女に想いを告げてしまった。

『好きだ』

彼の告白に、ミアは『私も好きです』と応えてくれた。その瞬間から、二人は男女の仲へと進んでいった。だが、それは茨の道の始まりでもあった。

セドリックの両親は二人の仲を引き裂き、彼を侯爵家の行き遅れの娘と無理やり婚姻させる。その結婚生活の中で、セドリックは失意に沈む日々を過ごしてきた。

ふと、ミアの声がセドリックを現実へと引き戻した。

「セドリック様」

「どうした、ミア?」

「馬車がこちらに向かって来ます」

その言葉に、セドリックの表情が僅かに変わる。

「……妻の馬車だ」

ヴィオレットの乗った馬車がアシュフォード邸の門をくぐり、二人のいる場所へと近づいてくる。ミアは不安そうにセドリックを見つめた。

「……私はどうすれば?」

その問いに、セドリックは迷いなく答えた。

「堂々としていろ。お前はアシュフォード家後継者ルイの実母だ」

「はい、セドリック様」

ミアが小さく頷くのを確認すると、セドリックは強い声で彼女に言葉をかけた。

「ルイもお前も俺が守る。安心していい」

セドリックの言葉を聞き、ミアはルイを見つめながら小さな笑みを浮かべた。その胸の中で、赤子のルイは静かに眠り続けていた。

◆◆◆◆◆

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